こんなことありました/ヘブンズフォーチューンチャーチ(天運教会)

教会に通うある主婦の心に残る思い出や、心に響いたものごと

夏が来れば・・・ ~あるお年寄りとの経緯~

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夏になると思い出す一人のお年寄りの姿があります。
その方は宮田さん(仮名)と言って、我が家の近所にある古いアパートに一人暮らし、
小柄で日焼けしていて70代くらいに見えました。
白いシャツには穴が空いていて、作業服風のズボンはお尻の破れをガムテープで補修してあり、靴も、ガムテープでぐるぐる巻いて補修してありました。銀髪は肩近くまで伸びていました。
一見、かなり近寄りがたい風貌ですが、人に危害を加えるような雰囲気は全くなくとても大人しそうな方に見えました。
夏の日暮れ時になるとアパートの敷地の膝の丈ほどのブロック塀に腰かけてラジオでニュースを聞いている姿をよく見かけました。

ある夏に、何日か続けて、やはりブロックに座ってラジオを聞く宮田さんを見かけた時がありました。暑いのに、エアコンが無かったり、生活に困っておられるのでは?と気になり、声をかけてみました。
私「こんにちは。ご近所のものですが、もしかして何かお困りのこととかないですか?」
宮田さん、(恐縮したように)「どうも、ご心配いただいて。ちょっと電気が止まっちゃってね。」
私「え?!電気が無いと、この暑いのに大変ですよね?}
宮田さん「いやね、請求書見つけて払えばいいけど、おっくうでね~。」
私「すぐに見つかりそうですか?」
宮田さん「はい、探せばどっかにあるんで。大丈夫です!」
「年金もあるし、大宮に住む兄貴が『何かあれば来い』って言ってくれてるんで。」と。
私は内心、本当ならばいいけど…と思いました。
宮田さん「夜はいい風が吹くから、外が一番気持ちいいんですよ。いやぁ、この風がありがたい。」
宮田さんに悲壮感はまったくありませんでした。
宮田さん「ボケないようにラジオ・ニュース聞いてるんですよ。勉強になるしね。学がないからニュースくらい聞かないと」「昔から僕、色んな人に良くしてもらってねぇ。…こんな風に声かけてもらって、ほんとありがたい。」
宮田さんの口からくりかえし「ありがたい」という言葉が出てきました。
不平不満や、誰かを恨みに思う話など全く出てきませんでした。
とても可愛がっていた妹さんがアメリカに嫁いで音信不通になりどうしているのか心配だとも聞きました。
「おおよそ、心からあふれることを、口が語るものである。」と聖書にあります。
宮田さんの心には、大切にしてくれた人と、大切に思っていた人への思いがあふれていました。

私「すぐ近くに住んでいるので、具合が悪くなったり、何かの時には声をかけてくださいね。」
 「きっと神様も宮田さんのこといつも見守っていらっしゃると思います。」
宮田さん「えぇ、何だか昔から人に良くしてもらってねぇ、そうかもしれません。子どもの頃から悪いことできないたちだしねぇ。」
私「私と話したみたいにいつも神様とお話されたらいいと思います。」
宮田さん「えぇ、そうします、そうしますよ。」

翌日、スイカを2切れほど持って行きました。
私「うちで食べきれないので良かったら召し上がっていただけませんか?」
宮田さん「せっかくなのに、すみません!実はスイカ嫌いなんですよ。お気持ちだけいただきます。」
人に迷惑をかけまいとしているように思えて、少し切ない気持ちになりました。

私にできることがあまりにもないので、役所の福祉課に電話をしました。
宮田さんの状況を伝え、ぜひ訪問してほしい、と頼みました。
お役所の人は「ご本人に窓口に来るよう伝えて下さい。一応その方の住所教えて下さい。」と言うだけでした。一度くらい見に来てくれてもいいのに…と思いながら、さっそくご本人にお話したものの、やはり
宮田さん「はい、ありがとうございます!年金もあるし、困ったら兄貴のとこに行くんで大丈夫です!ご親切にどうも!」
もしかしたら、プライドを傷つけてしまったかもしれない、お節介はひかえようかな・・・と思いました。

その後も宮田さんが庭先でいつものようにラジオを聞いている姿を見るとほっとしました。
またさっぱりと散髪して新しいシャツを着ている姿を見て、お兄さんのところに行ってこられたのかな?と思ったりしました。

冬になると、今度はアパートの庭先で七輪で火を起こして鍋を炊く宮田さんを見かけました。
「ガスも止められちゃったのかな?」と心配になりましたが、宮田さんが味見をしながら
「んー、うまい!」と言っているのが聞こえて思わず笑みがこぼれました。
さすが宮田さん、家の中より火事の危険が少ない外で炊事をし、どんな状況でも喜びを見出している…と思いました。

しばらくして、私が子どもの保護者会役員などで忙しくなり、
宮田さんの姿を見ることも減って、気になりつつも日が過ぎていきました。
外で煮炊きする姿も見かけなくなり、もしかして宮田さんに何かあったかな?と思いはじめた頃、
何人かの人が宮田さんのお部屋に出入りして荷物など運び出していました。
宮田さんの姿はありません。福祉課の方かな?宮田さん、どこかの施設にでも入られたかな?まさか・・・?その時宮田さんの安否を尋ねる勇気がありませんでした。

数日後、近所の年配のご婦人から衝撃的な事実を聞きました。
「あの方、亡くなったんですって」。いわゆる孤独死でした。
更に衝撃を受けたのは、宮田さんが煮炊きをしていたアパートの柱や壁に「火気厳禁」と札が貼られていたことでした。宮田さんのことを良く思わない人が「火事でも起こされたらたまらない」と働きかけたようです。宮田さんが外で煮炊きをしなくなった理由でした。むしろ宮田さんは火事の危険を避けるために外で煮炊きをしていたに違いないのに。それは宮田さんのささやかな幸せ、いや、それ以上に生きる糧を奪うことだったかもしれません。

お元気そうに見えて実は具合が悪かったのかもしれない…。どうして続けて気にかけて差し上げられなかったんだろう?自分の家族ならば、もっと何かしたはずなのに…。
後悔してもしきれない、胸のふさがる思いになり、家に帰ると宮田さんの霊魂のためにお祈りしました。
ふと、
「いつも喜んでいなさい。絶えず祈りなさい。すべての事について感謝しなさい。」
という聖書の言葉と共に、「ありがたい!」という宮田さんの口癖が思い出されました。
宮田さんはきっと最後まで不平不満を抱かず、誰も恨まずに旅立たれたに違いない、
神様に近い世界に向かわれたに違いない、そう思えました。
その人生の最後に、尊い神様のメッセージを届けて下さった宮田さん。
その霊魂のために一層祈るコロナ禍の夏です。